文鳥・夢十夜

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

 「坊ちゃんの時代」と本書の「思い出すことなど」を読み比べると、「坊ちゃんの時代」の修善寺の大患の部分において、この漱石の記述を丁寧に拾い上げて緻密に描かれているか分かると思う。異論があるかもしれないが、両者手元にあると比較して読めて嬉しいと思う。
 「文鳥」での文鳥を見る視線は女の人を描く視線のよう。先生の奥さんや野々宮くんの妹、糸子などそういう昔ながらの種類の女性を描写するような愛おしいものを対象に描く印象を受けた。あくまで印象。
 紐を垂らして云々の箇所は、養子先の年長の女の子にしたいたずらの様子らしい。親が勝手に漱石と結婚させようと話があったらしいが、かなわず他家に嫁いだらしい。道草で軍人の家に嫁いだ女性のモチーフとなった人とのこと。
 文鳥がその女性のイメージに重なるとして、漱石のいつくしむような描きぶりは、当時、その女性に恋心があったことを思い出しているからだろうと勝手に想像する。きっと古い日本的な女性だったのだろうと妄想すると、その他の小説で古風な女性のイメージが文鳥のイメージに重なるのがなるほどなぁと思われる。あくまで手前勝手な類推。
 かばんに忍ばせて、手持ち無沙汰になった時に取り出して読むとすっと腑に入ってくると思った。