古事記注釈その3

古事記注釈 (第3巻)????ちくま学芸文庫

古事記注釈 (第3巻)????ちくま学芸文庫

大国主命の国譲りの段。
国津神のしたことは不法占拠に違いないが肩入れしたくなる。
今の日本なら20年占拠し続けれれば、自分の土地になるのに。


大国主命の娘を娶った天若日子が返し矢に
射殺される場面の解釈は面白い。
古事記の注釈を読んでいて、
なるほどと思うことは多くあるが、
面白いと思ったのはここが始めてだ。
古事記を紹介する本の中でも
さして重きを置かないエピソードを、
この注釈を通すことで
十分独立し完結した悲劇にすることができると感じる。


天若日子変節に至る8年間の葛藤、
大国主の後継となる直前に裏切り者として処断される悲劇性、
そこは高天原の立場に立てばカタルシスを感じる場面だろうが、
それにしても妻や家族を残して死ぬ本人や
残される家族の気持ちを考えると無念さが伝わる。


一方、己の子供を殺しても痛める心もなく、
むしろ地上支配のため、打つべき一手に腐心する高天原の指導者層と
死んだ息子に面影の似る友人を錯乱して取り違える家族の対比も
読み手の心情としては、高天原が憎らしさを誘うし、
醒めた目で見れば、古事記が単に勝てる者の歴史を
伝えるだけではなくて面白い。


現在ではこのような注釈のトンネルを潜らないと
知ることのできない記号は
当時の口承で聴いていた人々にしてみれば、
共通認識されているいわゆるお約束の記号として読み取り、
我々には味気のない伝承でしかないこの言い伝えを
場面場面から喜劇や悲劇を見出し、感受し、
奥行きのある物語に膨らませて楽しんでいたのではないだろうかと思われた。


とりあえず、以上、チラシのうらの感想文。
夜勤明けなのでねむい。